『ゲゲゲの鬼太郎』5−51追記

第五十一話「ネコ娘の東京妖怪見物」に登場する妖怪は「赤エイ」です。

古椿同様に『鬼太郎』シリーズ初登場の妖怪です。原作漫画、アニメ、実写作品のいずれにも登場していません。
出典は、これもまた古椿同様に『妖鬼化』の「赤えい」からです。
そして、大本の原典は竹原春泉の『絵本百物語』に収録されている「赤ゑいの魚」です。

この魚その身の丈三里に余れり 背に砂たまれば落さんと海上に浮べり 其時船人島なりと思ひ 舟を寄すれば水底に沈めり 然る時は浪荒くして船これがために破らる 大海に多し

作中で語られているように、巨大なエイの妖怪です。
出身は千葉県。伝承によると、安房国野島ヶ崎の船乗りたちが時化に遭い漂流した島に上陸した島が巨大なエイだったといます。身の丈三里つまりは12km程の巨体だということですから、相当な巨体です。
巨体といった他は、取り立てて特徴はないようですね。人を食べるとか、災いをもたらすといった記述は、調べた限りまったくありませんでした。
アニメの作中のように、意図的に人間に危害を加えるような妖怪ではないようです。

赤エイの類話に説話『赤鱏の京』や橘南谿の『東遊記』の「おきな」などがあります。


改めて見直したら、この赤エイ声がとても可愛らしいのに気が付きました。
この回は、赤エイの他にも魅力的な妖怪が多数背景に登場しているのが印象的でした。特に、すっぽんの幽霊、あしまがり、赤頭、さとり、岸涯小僧といった本編ではスポットの当たらない妖怪が気になって仕方がありませんでした。


第六十五話「呪いの鳥!うぶめが舞う」に登場する妖怪「姑獲鳥」、第七十六話「最強タッグ!!南方&中国妖怪!!」に登場する妖怪「画皮」は以前に詳細な解説をしていますので、割愛いたします。

『ゲゲゲの鬼太郎』5−45追記

第四十五話「ネコ娘騒然!?妖怪メイド喫茶」に登場する妖怪は「古椿」です。

この妖怪は、原作及び、アニメ実写を含む『鬼太郎』シリーズ全作品を通じて初登場となります。
この古椿は『妖鬼化』に収録されている同名の妖怪からです。
『妖鬼化』によると、石川県や岐阜県に古い椿の木が踊ったり女に化けたりした話があるとあります。
そこには、アニメ内の展開とかなり似通った記述があります。あまり長いものではないので、全文引用します。

昔、山形城下を馬買い商人が歩いていた。そのあとを紅花商人が歩いていた。町を過ぎて峠道にかかると、馬買い商人はいつしか女と歩いていた。女は後ろ姿でよくわからなかったが、女が横を向いて馬買い商人に息を吹きかけると、商人は蜂に化身した。蜂は女の体のまわりを飛びまわった。女は横道に入ると、毒々しく咲いた椿の木の中に入った。蜂に化身された馬買い商人は、その椿の花に吸い込まれていった。しばらくすると、その花がポトリと落ちた。ずっとその様子を見ていた紅花商人は、その花を拾ってみた。蜂はすでに死んでいた。紅花商人は花を持って寺へ立ちより、事情を語った。和尚は、「街道を行く者が、姿を消すという話は聞いていたが、その女のしわざであったか」といった。和尚は、経文を唱えれば馬買い商人が生きかえるかもしれないといって、一心に経文を唱えたがその験はなく。蜂を椿の花とともに埋めたという。

アニメに登場した古椿とほぼ同じ能力であることが分かります。

ここから考えると、古椿という妖怪がアニメと同じ能力として伝承に語られるように思えてきます。
ところが、よくよく調べてみると、この伝承が本当にあるのか怪しいものだと分かりました。『妖鬼化』には明記されていないのであくまで推測に過ぎないのですが、どうやらこのエピソードの出典は山田野理夫の『東北怪談の旅』らしい事が分かりました。
このブログで何度か話題に上っているので、ピンと来た方もいらっしゃることでしょう。そう赤舌やわいらの解説にあるように、山田野理夫といえば、適当な妖怪伝承を捏造することで有名な人物であります。
そのため、この古椿に関するテキストの信頼性には大きな疑問が生じてきます。
ただし、問題なのは山田野理夫のすべての文章が捏造とは限らない事です。山田発の情報だからといって、無造作にそれをでっち上げとしてしまうのは早計です。山田野理夫のテキストの中にも、正しい情報が幾つも混ざっていることもまた事実ですから。まあ、だからこそ余計にややこしいのですけどね。
そのため、この妖怪は、伝承が実在するかグレーな妖怪ということになります。


なぜ黒ではなくグレーだとしたのかは、椿の怪異はどうも江戸時代にはかなりメジャーなものだったらしいからです。とりわけ文化文政時代の怪談流行時に、古椿の怪異は広く知られていたそうです。
調べた限りにおいて、『妖鬼化』と同様の椿の怪異譚は見当たりませんでしたが、女性に化ける椿の話などは見つかったので、もしかすると『東北怪談の旅』にあるのと同様の話がどこかに伝わっている可能性もあります。


妖怪デザインは、鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』にある「古山茶の霊」から来ていると考えてよいでしょう。

ふる山茶の精怪しき形と化して、人をたぶらかす事ありとぞ。すべて古木は妖をなす事多し。

石燕の解説は、文政文化時代に流行った古椿の怪異を意識したものとして考えて間違いないでしょう。
作中の特徴と一致しますので、同種の妖怪とみなしてよいでしょう。

『ゲゲゲの鬼太郎』5−ニャニャニャ(DISC:2)

ゲゲゲの鬼太郎 セレクション ニャニャニャのネコ娘 [DVD]

ゲゲゲの鬼太郎 セレクション ニャニャニャのネコ娘 [DVD]

DISC2:アクション編の感想と妖怪解説です。
収録作品は第四十五話「ネコ娘騒然!?妖怪メイド喫茶」、第五十一話「ネコ娘の東京妖怪見物」、第六十五話「呪いの鳥!うぶめが舞う」、第七十六話「最強タッグ!!南方&中国妖怪!!」の四編です。
四つのうち二つがネコ娘が他の女の子に嫉妬するのが象徴的な話でしたので、アクション編というよりジェラシー編と言ったほうが良いような気がします。
改めて見ると、五期のネコ娘は他のシリーズに比べて活躍の機会が大幅に増えてよりヒロインらしいポジションになった分、鬼太郎が他の女の子の関係とを邪推するのが多くなっているのが分かります。
このDVDに収録されている話を見た後、四期八十九話「髪の毛地獄!ラクシャサ」辺りを見ると、五期と他シリーズとのネコ娘の違いが浮き彫りになって面白いかもしれません。


では、DISK2の妖怪解説です。

ニャニャニャの特典

DISK1の特典映像は「スターフルーツ」の妄想バージョン(2バージョン収録)ですが、これが想像以上に面白かったです。
エンディングに流れていた「スターフルーツ」の映像(四十七士が出ていない方)に新規録音のナレーションが入っているだけなのですが、これだけでもDVD買ったかいがあると思える素晴らしさです。
二つあわせて3分程度なのに、突っ込みどころが多すぎて、気になったところすべてにコメントをするときりがありません。
一番大きなポイントをあげると、ネコ娘の妄想の世界の中では、どうやら鬼太郎はヒモになってしまっているようです。
大した分量ではないので、全ての台詞を文章に起こしておきます。*1DVD視聴してない方は、エンディングの映像を脳内で再生しながら読んで下さい。


鬼太郎、大きくなあれ!編
ゲゲゲハウスにて
ネコ娘「じゃあ、お仕事いってきます。ちゃんと朝ご飯食べるのよ!」
鬼太郎「は〜い」
ネコ娘「鬼太郎、大好きな私の鬼太郎。」
ネコ娘「相変わらず働きもしないけど、それでいいの。そこがいいの」
ネコ娘「私がバイトして働いて一生食べさせてあげわ」
ネコ娘「だから…大きくなってにゃん…」


街中で妖怪が暴れる場面
朱雀 「シャーーー!!」
ネコ娘「大変、町が」
ネコ娘「あ」
青龍 「ウーアーーー!!」
鬼太郎「ネコ娘!」
ネコ娘「鬼太郎!」
鬼太郎「はっ!」
鬼太郎「ウワー!」
鬼太郎「いくぞ巨大鬼太郎!ゲゲゲ大乱闘!!」
ネコ娘「やった、早速大ききなった」
鬼太郎「メガトンクラーシュ」


再びゲゲゲハウス
ネコ娘「盛って、盛って、はい」
ネコ娘「いや、もっとはい」
鬼太郎「それ、夢の話なんだよ、君の」
ネコ娘「いいの、へへへへ、大きくなってにゃん♥」


ネコ娘は僕が守る!編
ゲゲゲハウスにて
ネコ娘「あなた、お仕事いってくるからちゃんと朝ご飯食べてね」
鬼太郎「は〜い」
鬼太郎「僕がネコ娘と結婚してからもう何年になるだろう?」
鬼太郎「相変わらず彼女は働き者だ。僕には過ぎた女房だ」
鬼太郎「だけど最近どうも気になることがある。」
鬼太郎「なんか、やたら沢山ご飯を食べさせるんだ」


街中で妖怪が暴れる場面
朱雀 「シャーーー!!」
ネコ娘「大変、町が!」
ネコ娘「あ」
青龍 「ウーアーーー!!」
鬼太郎「大丈夫かハニー!!」
ネコ娘「ダーリン♥」
鬼太郎「はっ!!」
鬼太郎「うっ、うっ、ううううわああああああああ!!」
ネコ娘「やった、成功したわ!これでうちの旦那も巨大ヒーローよ!」


再びゲゲゲハウス
ネコ娘「山盛り、山盛り、へへ、はい」
鬼太郎「ああ」
ネコ娘「はい、いやもっとかな」
鬼太郎「えっ!?」
鬼太郎「あ、このご飯何が入っているの?」
ネコ娘「うふふふふふん♥あ・い♥」



また、古参のファンが怒りそうな内容ですが、この馬鹿馬鹿しさ、痛々しさは正直嫌いではありません。
寧ろ、あまりにも突き抜けた馬鹿さ加減は好感が持てます。
これをテレビ放送時にやっていたら、どんな反響があったのかだろうかと、気になって仕方がありません。


このDVD本編、特典ともに見て、改めて五期打ち切りをしたのは残念だったという思いがわいてきます。
特に本編が、今もう一度見なおすとよくできているなと感心してしまいました。
何とか四十七士の完結編が日の目を見ることを願ってやみません。

*1:耳コピですので、間違っている箇所があるかもしれません。

『ゲゲゲの鬼太郎』5−23追記


第二十三話「美食家!?さざえ鬼」に登場する妖怪は章題にあるように「さざえ鬼」です。
原作漫画では「さざえ鬼」に登場しています。この話が今回の原作になっており、大分アレンジされていますが、概ね原作に沿った展開です。食通といったキャラクタ設定や、プレスして鬼太郎を食べてしまう点、食べられた鬼太郎が毛穴から脱出するシーンなど、全て原作にあります。
個人的には、下駄までおいしく食べるところがポイントが高いです。
アニメでは、一期第三十三話「さざえ鬼」、三期第十四話「不老不死!?妖怪さざえ鬼」、四期第十七話「海奇!妖怪さざえ鬼」に登場しています。いずれも鬼太郎を食べようと画策しています。


原典は鳥山石燕の『画図百器徒然袋』の「栄螺鬼」です。

絵画に添えられた解説文は下記のとおりです。

雀海中に入てはまぐりとなり、田鼠化して鶉となるためしもあれば、造化のなすところ、さざえも鬼になるまじきものにあらずと、夢心にもおもひぬ

中国の諺に「雀海中に入って蛤となる」というものがあります。古代中国の俗信では、晩秋に雀が集まって騒いでいるのは、海の中へ入ると雀が蛤に変化すると考えられていました。その俗信から、物事が大きく変化することのたとえとしてこの言葉が生まれました。
石燕は、この諺に引っ掛けて、雀が蛤になるならサザエも鬼になるだろうと考えて、栄螺鬼を作り出した模様です。
つまりは鳥山石燕のオリジナル創作妖怪と言う訳です。サザエにまつわる妖怪譚はあるにはありますが、この栄螺鬼は直接関係がないようです。


第二十九話「ネコ娘の妖怪バスツアー」に登場した妖怪狂骨、第九十八話「おやじ大充血!勇者鬼太郎」に出演の妖怪文車妖妃は既に解説済みなので割愛します。

『ゲゲゲの鬼太郎』5−2追記


第二話「ビビビ!!ねずみ男!」に登場する妖怪は「がしゃどくろ」です。
原作では『鬼太郎地獄編』に登場していますが、この話とは役割が全く違います。
アニメでは三期第七十一話「妖花の森のがしゃどくろ」、四期第十一話「毛羽毛現とがしゃどくろ」第九十六話「妖怪王・ぬらりひょん」に登場していますが、やはりこの話とは違った役割です。
実写作品では劇場版の『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』に出ていますが、これもまた五期とは違った役割での出演です。


結構有名な妖怪だと思いますが、実はこの妖怪は伝承がありません。
確認できる最古の資料は斎藤守弘の『世界怪奇スリラー全集2 世界のモンスター』です。最古とはいっても昭和47年刊行のものですが。
ほぼ間違いなく、斎藤守弘が創作した妖怪と見て間違いないでしょう。
書名から分かるように、『世界怪奇スリラー全集2 世界のモンスター』は子供向けの図書です。子供向けだから、適当にでっち上げた妖怪なのでしょう。
その後、佐藤有文の『日本妖怪図鑑』でがしゃどくろのイラストに歌川国芳作の「相馬御殿」を採用しています。その「相馬御殿」の骸骨が定着して、現在の妖怪がしゃどくろとして知られています。

その佐藤の『日本妖怪図鑑』を水木先生が参考にしてイラストにしてしまったため、がしゃどくろは有名妖怪となった模様です。