書痴の書架より

紅顔 (講談社文庫)

紅顔 (講談社文庫)

井上祐美子の『紅顔』です。
清に投降し、自分がかつて遣えていた明を滅ぼすにあたって大きな原因を作った猛将呉三桂と、所謂傾国の美女というポジションにあった陳円円の物語です。
一般的に、易姓革命を扱った物語は、武将や軍師の様な歴史の表舞台で活躍した人々が描かれていますが、この『紅顔』においては、武将である呉三桂だけではなく、彼の愛妾である珍円円との関係にもかなり詳細に書かれており、歴史小説でありながら、恋愛小説としても読めるものに仕上がっています。


これまで、中国大陸を舞台とした物語は、『三国志』にしろ『水滸伝』にしろ、男性の視点でしか物語が描かれていないことが殆どですが、この『紅顔』においては、歴史の流れに翻弄された女性が大きく取り上げられていますので、既存の歴史娯楽作品と一線を画したものになっています。

そういえば、作家が女性ということもあってか、井上祐美子の作品では女性を上手く取り上げたものが結構ありますね。