化け物の文化誌

今日は、上野の国立科学博物館に公開中の「化け物の文化誌展」を観に行って来ました。
妖怪好きのつぼをついた素敵なイベントです。

さて、博物館に行ってみると、同じ館内にて「大英博物館 ミイラと古代エジプト展」やっているためなのか、それとも日曜だからなのかは分かりませんが、会場内には沢山の人がいました。百人や二百人ではきかないほどの大盛況ぶりで、あまりの人の多さにゆっくりと落ち着いて鑑賞できませんでした。

木乃伊

今回の展示において、一番の目玉になっていたのは、妖怪のミイラでした。
河童の手、人魚、天狗と三種類ありましたが、いやもう胡散臭さがぷんぷんと漂ってくる代物でした。
何れも、30センチ程の大きさしかなく、明らかに作り物だろうと誰もが思っていたのでしょうが、それでも見たくなる如何わしい魅力がありました。
他にも、天狗の下駄、衣、茶碗、弓矢なども展示されていました。下駄や茶碗などは天狗が使ったかどうかはさて置いて、実際に使用でそうな物だったのですが、弓矢の造形は酷いものでした。そこら辺に生えている木に紐を括り付けただけにしか見えず、まるで小学生が遊びで作ったような出来栄えでした。とても人を超越した天狗様が使った武具とは思えませんでしたね。

文献

江戸時代に書き記された妖怪の書物も大量に展示されていました。
その中に、私が所有している(復刻版ですが)『桃山人夜話』が有ったのは少し嬉しかったですね。

竹原春泉 絵本百物語―桃山人夜話

竹原春泉 絵本百物語―桃山人夜話

『桃山人夜話』の他には、『本草綱目』『和漢三才図会』の様なメジャーな物に始まり、『西播怪談實記』『北越奇談』『諸国里人談』『本草綱目啓蒙』『日本山海名物図会』『甲子夜話』他の多数の書物が展示されていました。
名前は知っていても、読んだことが無いので一度見てみたいと思っていたものが多数ありましたが、当然のことながらディスプレイされているものを手に取ることは出来ませんでした。

但し、『甲子夜話』のみ、状態が良いものだったので多分複製だとは思いますが、手にとって読むことが出来たのが非常に良かったですね。こういった展示形態のものをもっと増やして頂けると有りがたいです。

研究者

お化けを研究した学者達の紹介もありました。
観客の興味は然程無かったようですが、個人的には非常に興味をそそられましたね。



井上円了
「お化け博士」の異名を持つ哲学者で、今の東洋大学の創設者。
妖怪を科学を持って解明しようとしたことで有名な人ですが、今回展示を見て井上は妖怪が嫌いだから近代科学の技術を持って迷信、俗信を啓蒙しようとしていたというイメージが払拭されました。

展示品は、『妖怪百談』『続妖怪百談』『天狗論』『妖怪玄談』『おばけの正体』『妖怪学講義録 全』『迷信と宗教』といった彼の著書と、「幽霊」「天狗」と大きく書かれた二つの扁額がありました。

どう見てもお化けが好きな人間が書き記したようにしか見えない、お化けに対する愛情、若しくは執着がはっきりと読み取れました。
きっと、井上はお化けが嫌いだからではなく、お化けが好きだからこそ、伝承にある妖怪と、巷間に流れているいい加減な妖怪像とをはっきりと切り分けて、科学的思考を持ちつつ、且つ話の中にだけ有る妖怪を楽しめるよう、蒙昧な民衆を啓蒙しようとしたのではないでしょうか。
それが誤って、妖怪を撲滅を試みた姿に捉えられてしまった様に思います。



柳田國男
日本の民俗学の祖、柳田國男の展示もありました。
「化け物」、「柳田」とくれば、当然の如く『遠野物語』ですね。
展示品は、何と『遠野物語』の初版本と、原稿三部作が並んでいました。
初版本の方は、限定三百五十部の内の一つだそうで、かなり貴重な品ですね。私も喉から手が出るほど欲しい一品です。
原稿は、柳田国男佐々木喜善から聞き書きした「毛筆本」、それを原稿用紙に清書した「ペン書き本」、最初に活字にした「初校本」の三種がありました。
妖怪好きで、且つビブリオマニアの気がある私から見れば、まさにお宝です。出来ることならショーケースから取り出して、手にとって読んでみたかったです。


他にも、柳田の著書が飾ってありました。私の持っている(当然ながら復刻版ですが)『妖怪談義』なんかもありました。



白井光太郎
『植物妖異考』の著者だそうです。
本草学に通じていた人のようで、植物に関する怪異の書物が展示されたいました。



南方熊楠
粘菌研究で有名な南方熊楠は、パネルのみの展示でした。
南方に関しては、別途特別展示が開催中で、そちらに詳しい展示がありました。
日本の民俗学に大きな影響を与えて人ですが、それ以外にも色々な活動をしており、『Nature』に幾度と無く論文が掲載されていたとか。どうやら『Nature』の掲載回数は過去最多を誇るようです。
日本が生んだ最大の天才の一人といっても過言ではない人でしょう。

その他

他には、リュウグウノツカイのホルマリン漬けが展示されていました。
リュウグウノツカイは、確か『甲子夜話』などの書物に、妖怪の一種として記録されたいたような気がします。それを受けての展示だったのでしょうね。


後は、岡野玲子の『陰陽師』の原稿がありました。
「妖怪」「漫画」と来れば、普通は水木しげるが出てくるべきだと思うのですが、何故か岡野玲子でした。
まあ、あの人も『陰陽師』『妖魅変成夜話』といった妖怪物を書いているので、今回のテーマにはあっていますが、妖怪の第一人者の水木しげるを差し置いての登用は疑問を感じざるを得ませんでした。
水木先生の原稿だと、貸し出しに費用が掛かり過ぎるからと言った金銭的な問題でもあったのかと邪推してしまいました。



他にも、幾つ物絵画、書物他の展示物が有り、非常に楽しい充実した内容でした。
入場料は五百円でしたが、私としてはこれで二千円位取られても一切文句は言わないでしょうね。
十一月十二日まで開催しているので、もう一度行ってみても良いかと思っています。
なにしろ上野でしたら、国立科学博物館以外にも色々見るところがあって、一日いても楽しめますから。
ただ、やっぱり土日祝日は混んでいると思われますので、出来ることならば平日に行って、ゆっくりと見学出来れば良いんですが、残念な事にスケジュールが都合つかないでしょうね、多分。



国立科学博物館
http://www.kahaku.go.jp/