書痴の書架より

小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所

小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所

『小説こちら葛飾区亀有公園前派出所』を読了しましたので、各作品の感想を一言ずつ書いていくことにします。
私は原作漫画を一冊も所有していませんので、『こち亀』の本当の面白さを充分に理解できていないかもしれません。「少年ジャンプ」で読んだ記憶のみとの照らし合わせていますので、生粋の『こち亀』ファンの方とは違った感想になっていると思います。


『幼な馴染み』大沢在昌
下町の粋な両さんが前面に出ている作品でした。
新宿鮫』のキャラ達も、違和感が無く浅草に溶け込んでいるので、『新宿鮫』×『こち亀』のコラボレーションは成功しているといっても良いでしょう。
全体的に見て、可もなく不可もなくといった無難な仕上がりに感じました。


『池袋⇔亀有エクスプレス』石田衣良
両津のヤクザの如き服装はギャグで書いたのか、それとも池袋の町で立ち回りをする時に栄えるように書いたのか判断に苦しみます。
大沢の作品同様に、両さんの人情をクローズアップしつつ、金に汚い部分や酒と女に弱い面も書かれてあり、漫画の小説化としては、原作の持ち味を上手く引き出した良作だと思います。


『キング・タイガー』今野敏
定年退職した男が延々とプラモデルを作る、ただそれだけの話です。
しかし、男の(他人から見ると馬鹿馬鹿しいとしか思えない)趣味を上手く描ききっていています。
私はプラモデルを作る趣味はありませんが、こういった趣味の世界の話はシンパシーを感じる為、とても楽しく読めました。


『一杯の賭け蕎麦―花咲慎一郎、両津勘吉に遭遇す―』柴田よしき
生理的に受け付けられませんでした。
ライトノベルス作家が、生計を立てる為に仕方なく引き受けて書いた小説にしか思えません。
柴田よしきの作品は今まで読んだことがありませんでしたが、この作品を読んだ後だと、他の作品を読んでみようという気にはとてもなれません。


ぬらりひょんの褌』京極夏彦
寺井の口調がおかしく感じましたが、それ以外は非常に良かったです。
私が京極のファンなので、評価が多少甘くなっていることもあるのかもしれませんが、収録作品の中では一番出来が良かったように思います。


『決闘、三対二!の巻』逢坂剛
コンゲーム小説に分類できるのではないかと思います。
短い紙幅の中で、化かし合いを上手く纏めてあるのは良いのですが、両津と麗子のキャラクタ造形に違和感を感じてなりません。この内容ならば、『こち亀』の登場人物を使わない方が良かったのではないでしょうか。
逢坂剛は本当に『こち亀』を読んで小説を書いたのか、少々疑問を感じます。


『目指せ乱歩賞!』東野圭吾
リアルなミステリを書く一方で、コミカルな作品も手掛ける東野圭吾のコミカルな面が上手く発揮されていると思います。
ストーリは王道ではあるものの、最後のオチに至るまで引き込ませるようになっているのは流石です。
端役の登場人物が『こち亀』の本編に出てくるような名前を付けてある辺りもポイントが高いですね。