『ゲゲゲの鬼太郎』5−65   

ゲゲゲの鬼太郎』第六十五話「呪いの鳥!うぶめが舞う」の感想です。
今週は、エンディング曲が変わっていて驚きました。
私は前の方が好きでした。何しろ、妖怪が沢山出てきていたので。


今回登場の妖怪はうぶめですが、日本の妖怪「産女(うぶめ)」と中国妖怪「姑獲鳥(こかくちょう)」を併せ持った性質の妖怪として描かれていました。
産女はかなり古くから伝承が伝わっているようで、『今昔物語』において頼光四天王卜部季武が遭遇していますから、千年以上前から存在した妖怪のようです。
また、生息地域もかなり広く、形態や名称の違いはあるもののほぼ日本全国に渡って伝承があります。別称にウバメ、ウグメ、ウーメ、ウバメドリ他と多数あります。有名な飴買い幽霊もこの産女の仲間と見てよいでしょう。
基本的には、産褥で死亡した女性の無念が形となったものとされ、子供を抱きかかえた姿で現れます。そして、その子供を出会った人に渡すのですが、その子供は抱くと手から離れずに徐々に重くなって、仕舞には殺されてしまうといいます。殺されること無く、赤子の重さに耐え切ったものは怪力を得られるといった話もあります。『鬼太郎』レギュラーキャラの子啼き爺と似た性質を持っていますが、子啼き爺も産女から派生した妖怪だとも言われているようです。
この産女の特徴を見ると、赤ん坊を攫うのではなく渡すという辺り、今回『鬼太郎』に登場したうぶめとは全く逆の行動を取っていて同じ妖怪であるとは思えません。また、姿も人間の女性と怪鳥では全く違います。


一方、中国の妖怪姑獲鳥はというと、荊州に多く棲息する妖怪で、夜間飛行して他人の子供を攫うとされています。別称に乳母鳥、夜行遊女、天帝少女、無辜鳥、隱飛、鬼鳥などがあります。
子供を攫う手順は、先ず夜間に干されている子供の服に自らの血液を印に付けて、その後子供を連れ去るそうです。その為、中国では夜間に洗濯物を干すことを禁じている地域があるとか。
姑獲鳥の姿は、今回『鬼太郎』に登場したような鳥の姿をしているとされますが、毛を脱ぐと人間の女性になる、或いは女性が毛の衣を纏うと鳥の姿へと変わると云われています。
子供を攫うという性質が、今回『鬼太郎』に登場したうぶめと一致します。


それでは、『鬼太郎』が姑獲鳥と産女を取り違えていたのかというとそうではありません。
江戸時代ごろから既に、産女と姑獲鳥が混同されていた模様です。京極夏彦は『陰摩羅鬼の瑕』の作中において、江戸時代の儒学者林羅山が『本草綱目』に記述のある姑獲鳥を産女と同定したのがはじまりだと言っています。
その為か、近世以降は「うぶめ」を「姑獲鳥」と表記するようになっています。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』では、子供を抱いた女性を姑獲鳥として紹介しており、「うぶめ」と仮名をふっています。


さて、そこで今回『鬼太郎』に登場したうぶめを見ると、子供を攫う性質は姑獲鳥から来ているのが分かりますが、その一方で誘拐動機が産女の伝承を採用しているのも分かります。
この辺りの動機付けは良かったと思います。原作ではただ子供を攫うだけで、何故なのかは分かりませんでした。しかし、産女の子供を失った無念という特徴を引いてきて、ただ単に悪事を働くのではなく、悲しみからの行為であるとすることで、ストーリに深みが出たように感じます。
水木しげるの原作をベースにしつつ、伝承にある産女を取り入れた、水木先生をリスペクトしつつ詳細な妖怪検証の結果をも導入した形にしたように思えます。

他に気になった点は原作からある設定ですが、姑獲鳥石に羽を付けると鳥妖怪になるのは、姑獲鳥の女性が羽を纏うと鳥になるという伝承をからの来ているのでしょう。


今回は、ストーリよりも妖怪の特徴を上手く捉えている部分に魅力を感じました。
原作をアレンジしてアニメにする際に、ここまで良くも妖怪を調べたものだと感心します。
五期の妖怪を丁寧に扱う姿勢を再認識できたという意味においては、とても素晴らしい回だったと思います。