『ゲゲゲの鬼太郎』5−78   

ゲゲゲの鬼太郎』第七十八話「怒れる亡者たち!ヒダル神」の感想です。
今回登場の妖怪はタイトルにあるように「ヒダル神」です。過去のアニメにも出ていませんでしたし、多分原作にも登場していない妖怪だったように思います。
「ヒダル神」という名称は四国のものですが、同様の現象は主に西日本を中心に伝承があり、おおよそ全国各地に分布しています。各地の異称は、磯餓鬼、餓鬼憑き、クワン、クワン様、コーケ神、食取り、タニ、ダニ、ダラシ、ダリ、ダリ神、ダリ仏、ダル、ヒダリ神、ヒダルゴ、ヒムシ、ひもじい様、ヒンドなどがあります。民間伝承に残る妖怪としては、結構有名な部類に入るのではないかと思います。
作中でヒダル神が口にしていることから分かるかと思いますが、「だるい」「ひだるい」という空腹感を表す言葉から命名されている模様です。
このヒダル神は一種の憑き物で、これに憑かれると空腹感を覚え、体の自由を奪われてしまい、時にはそのまま死んでしまう事もあるそうです。作中では人間の様なキャラクタとして描かれていますが、本来は目に見える怪異ではなく、五感に訴え掛けられる現象を指しているようです。
作中では、食べ物を粗末にした人間に憑いていましたが、私の知る限りではそういった事例はありませんでした。ヒダル神に関するものを読んで受けた印象は、山間部を歩いている人に無差別に憑くといった感じがします。この「もったいないおばけ」みたいな要素は、恐らくアニメオリジナルの設定なのでしょう。ストーリを分かり易く演出する為には悪くないものだとは思いますが、本来の妖怪を誤解してしまう可能性が非常に大きいのが心配です。
これに対処する方法は、作中で説明のあったようにわずかでも食べ物を口にするか、米という字を掌に書いて舐める、他には着ているものを後ろに投げると良いとされています。
出現地域は、作中でねずみ男が遭遇したような山道で、大抵は以前行倒れがあった場所だとされています。今回作中に出たヒダル神本体は、あの山で行倒れた人の成れの果てなのかもしれません。他には、四辻や峠の辻等に出る場合が多く、土地によっては海上や磯、火葬場などでも現れる時があるようです。
その正体は、作中のヒダル神のように餓死者、横死者、変死者の浮かばれない霊であるのが一般的ですが、山の神や水神の仕業であるとされる地域もあるようです。
このヒダル神は実際に現象がある妖怪で、現在でもまれに報告例が挙がっている模様です。その現象は山間部で急激に血糖値が下がった場合、植物が腐敗した時に発する二酸化炭素の中毒によってヒダル神に憑かれたのと似た症状になるので、それが妖怪の正体ではないかとする説があるようです。
不思議な体感をしたときに、その現象の原因を分かり易くするために、怪異を使って説明したのがこの妖怪なのではないでしょうか。


さて、今回の話は非常に面白かったと思います。
メインのヒダル神の説明が上手くストーリに結びついていた様に感じました。
飽食の日本人に対する教訓として、餓死者の霊が警鐘を鳴らすといった展開は『鬼太郎』のオーソドックスなパターン、特にアニメ四期では多かったものだけに、非常に鬼太郎らしさが出ていたと思います。
そして、直接の戦闘手段を持たないながらも、非常に強力なヒダル神の能力も良かったですね。吸血鬼が仲間を増やすのと同じような感じでヒダル神が増殖していくのはパニック映画の様で、見ていてはらはらしてしまいます。特に、テレビ放送を介して一挙に仲間を増やそうとする所が個人的には一番良かったと思います。この現代日本は、衣食住に困る人はごく少数ですから、下手をすると一億人以上がヒダル神になってしまいます。方法さえもっと上手ければ、このヒダル神は日本を破滅させる事も出来たでしょう。ぬらりひょんと組んでいたら相当手ごわい相手になったでしょう。
私は、作中で詳細な説明こそ無かったものの、世界の何処かで飢餓に苦しんでいるといったヒダル神の台詞もとてもよかったと思います。現代日本に暮らしていると先ず気が付きませんが、今でもその日に食べる物が無く苦しんでいる人が数多く居ます。主にアフリカなどの後進国や紛争地帯に多く、今なお多くの餓死者が出ています。
基本的に人間の歴史は飢えとの戦いで、安定した食料の供給が出来るようになったのは恐らくここ百年位の事ではないかと思います。その事を現代日本人は忘れるどころか、そもそも知らないのですから、ヒダル神が怒るのも無理が無いのかもしれません。
飢餓の歴史や世界情勢を知れとまでは言わないものの、少しは食に対する関心をもって欲しいといったテーマが隠されているような気がしました。
また、ヒダル神の退場シーンも良かったと思います。赤ん坊がお腹が減った為に泣いているのを見て、ヒダル神が哺乳瓶を渡すのは感慨深いものがありました。妖怪退治は悪さをする妖怪を力でねじ伏せるものが多いですが、逆に妖怪の苦悩を取り払う事によって解決する場合もあります。御霊信仰などがその部類になるでしょう。
強敵を倒すといったものは爽快感があった良いのですが、こういった原因の究明と解消によって妖怪を退けるのもまた面白い展開だと思います。


そして、鬼太郎がピーマンが苦手という事が今回新たに発覚しました。自転車に乗れなかったり、ピーマンが苦手だったりと、今期の鬼太郎は新たに弱点が追加される傾向にあるようですね。しかも、まるでどこかの子供のようです。
番組を見ているのは多くが小学生でしょうから、子供達の多くが苦手とするものを鬼太郎が苦手とする設定をつけることによって、親しみやすくしようといった狙いなのだと思います。
そして最後に鬼太郎が苦手を克服するから、今度は君たちも頑張れといったメッセージを盛り込んでいますね。
こういった子供番組らしい所は、とても微笑ましいですね。