『ゲゲゲの鬼太郎』5−96   

ゲゲゲの鬼太郎』第九十六話「怪奇ロマン!妖花の誘い」の感想です。
今回は章題にあるように、「妖花」のエピソードになります。妖花は原作に同名の話がある他、アニメ一期第三十二話「妖花」、三期の第七十一話「妖花の森のがしゃどくろ」、四期第三十話「妖花!夏の日の記憶」とアニメ化の際は必ず登場しています。
過去作においては、ストーリの骨格はすべて同じで、南方の戦線で亡くなった人、原作・一期では父親、三期は叔父、四期は祖父の想いが妖花に宿り、身内の元へ飛んでいきます。妖花が咲いた家に住むヒロインは、鬼太郎とともにその原因を突き止めるべく、妖花の出身地である南方の島へと向かい、そこで戦没者の遺骨を発見するというのが大まかな筋です。
今期においても同様の話になるかと思いきや、まったく別のものになってしまっていました。今回は戦死者の存在がほぼ皆無となっています。かろうじて、まゆみが南方の島に上陸したときに、旧日本軍の遺骨らしきものを見たくらいでしょうか。個人的には、「妖花」=「戦死者の想いを伝える」といったイメージだったので、そのところは変えてほしくありませんでした。
しかし、よく考えてみると、この戦死者の想いを伝えるといった部分を変更してしまったのは仕方がないとも思えます。何しろ、終戦から六十年は経っています。戦争で未練を残した人の想いが誰かに届くことがあったとしても、時間が経ちすぎています。最愛の人に伝わるほどの強い思いがあったとしたら、もうとっくに届いていることでしょう。戦没者の想いが今届く話にしたら、六十年間何やっていたのだと謂われかねないでしょう。また、今期でも旧日本軍の遺体を発見する話にするとしたら、南方まで行くヒロインは兵隊の曾孫になるでしょう。いくら血の繋がった肉親とはいえ、曽祖父と曾孫では想いを託す間柄としては結びつきが弱すぎる気がします。
戦後の時間経過を考えて、現代ならどういったエピソードにすれば今の視聴者に受け入れられるのかを考慮しての設定変更だったのかもしれませんね。


さて、今回登場の妖怪は、妖花を筆頭に聖霊アグリ、森の霊、グハ、花魄の計五体と結構大目です。妖花の話でまさかこんなに沢山の妖怪が出てくるとは思いませんでした。
まず最初に登場するのは妖花です。水木先生がこれを妖怪図鑑の類に書いている形跡もないことですし、これは果たして妖怪なのかという疑問がありますが、恒例の妖怪紹介の一枚絵もあるので、アニメにおいては妖怪のうちの一体という扱いなのでしょう。
過去の作品同様、話の導入に登場してきます。いつも通り始まりを告げる役割を振られています。
持っている能力も過去作品と同じで、人の想いを受けて、伝えたい相手の元まで飛んでいました。
今期の妖花で特筆すべき部分は、過去の作品と比べて格段に不気味なデザインになっていることでしょう。毒々しい色彩もさることながら、花弁に目玉のような模様があるのが特徴的です。見た目のみに関して言えば、五シーズン中最も素晴らしい造形だと思います。
過去の作品を知っている人はそうではないでしょうが、今回初めて妖花を見た人は、絶対に人間に害を与えるものだと勘違いしたことでしょう。あのデザインで実は味方だとは想像もつかないでしょう。
個人的には、一期の妖花も相当不気味だと思います。一期は白黒の作品ですから、色合いがどんなものなのかはわかりません。しかし、その不利な状況を補って余りある不気味さを一期の妖花を持っています。一期の妖花はなんと夜間に咲き乱れ、クリスマスツリーのイルミネーションの如く明滅するのです。光苔のように仄かに発光するするというのならまだわかるのですが、まるで電球のようにチカチカと光り輝く花はこの世のものとは思えません。しかも、蔦が伸びるだけでは飽き足らず、花が飛んで鬼太郎を窒息死させるべく襲ってきたりもします。なんとも活動的な植物です。
この妖花は、恐らく伝承にはないものでしょう。水木先生は、妖怪というより、物語を盛り上げる舞台装置位のつもりだったのではないかと思います。水木先生の妖怪画の集大成である『妖鬼化』にも載っていません。
妖怪図鑑の類に載っていないという点を受けたからでしょうか、一期と四期では鬼太郎親子ですら妖花の事を知りませんでした。三期と五期では、何故か目玉親父がとても詳しく知っています。


南方の島に到着すると、聖霊アグリが手荒い歓迎をしてくれていました。アニメには初登場の妖怪です。恐らく原作にも登場していないと思います。
これは水木先生の『妖鬼化』に精霊アグリの歌として紹介されています。
アグリはニューギニア出身で、霊界の女王のような存在だといいます。音楽を奏でて踊りを踊っていると、ピッタガスと呼ばれる人間が奏でる以外の音と共に現れるそうです。
『妖鬼化』のイラストは、今回のアニメで登場したものとほぼ同じデザインのものが描かれています。
目と鼻のついた球体のようなものがいくつも浮かんでいるのは、祭りに浮かれていることを示しているのでしょう。


次いで登場したのは森の霊です。『鬼太郎』シリーズ初出演で間違いないでしょう。
これは、同名のものを見つけることができませんでしたが、確かどこかで水木先生がアニメに登場したのと同じデザインのものを描いていた記憶があります。不確かな記憶ですが、水木先生のデザインが元になっているキャラクタです。
手持ちの本の中では、『怪』の第零号にあるバイニング族の森の精霊が似ていました。
アグリやグハがニューギニア出身の妖怪ですから、ニューギニアのバイニング族の森の精霊が元である可能性は結構高いのではないかと思います。
とても水木的なデザイン、というか水木先生が好みそうなデザインの仮面が素敵だと感じました。


南国の親分格として登場したのは、ニューギニアのセピック河上流に住むワイへ族の妖怪の親玉グハです。
過去のアニメには登場したことがありません。原作でも見たことが無いので、今回が『鬼太郎』デビューでしょう。
アグリが登場したこともあわせて考えると、今回の舞台はニューギニアだったのでしょうね。
グハもアグリ同様『妖鬼化』にその姿が載っています。
『妖鬼化』の説明によると、水木先生は夢の中でグハを見たとあります。夢とか音にしか現れない精霊のような存在なのだとか。夢の中でも圧倒的な迫力を持っていたそうです。確かに、今回登場したグハは親玉の風格を持った強豪妖怪といった風情でした。
このグハは、実際に今でもニューギニアで信仰されている模様です。妖怪というよりも、アニミズムにおける神と考えたほうが正しいように思います。
作中で死者の国の守人をしていました。グハが神様だとしたら、死後の世界との親和性はとてもよさそうな気がしてきます。
大物感をにおわす言動をしての退場と、少し勿体無い感じがしました。多分今後の再登場は無いと思われるだけに残念です。万が一再登場があるのなら、同じ南国同士ということで、南方妖怪との絡みを見てみたいものです。
それにしても、ニューギニア出身衆は本当にマイナー者ばかりの登場になっていますね。この手の原作の展開を生かしつつ、マイナーな妖怪をどんどん取り上げてくるのは、五期の大きな楽しみです。


最後に登場してきたのは花魄です。妖花のエピソードにおいて、初めて明確な敵として登場したキャラクタです。
今回の森の霊や、過去作において唯一戦闘場面のあった三期に登場した対戦相手の大蛸とがしゃどくろは、鬼太郎たちが墓を荒らす侵入者と勘違いしての攻撃でしたが、この花魄は彼らと違い、悪意を持っての行動でした。ここが過去の作品の構図との最大の相違点でしょう。余談ですが、三期のがしゃどくろは下半身がまるで蟻か蟷螂のようなデザインになっており、とても違和感があります。あれは本当にやめてもらいたかったです。しかし、最後に見せたがしゃどくろの不機嫌な表情は可愛らしくて好きです。
この花魄は水木先生が描いた痕跡が見当たりませんでした。『鬼太郎』シリーズ初登場どころか、もしかして、完全にアニメオリジナルのデザインなのかも知れません。
出典は、草野巧の『幻想動物事典』でしょうか?他に花魄に関する記述が見つかりませんでした。
『幻想動物事典』によると、花魄は中国に伝わる木の精の一種で、三人以上が首吊り自殺した木に、自殺者達の生前の無念が凝り固まって誕生すると言われる妖怪だとのこと。
掌サイズの大きさで、肌の白い美女の姿をしている。 その鳴き声はインコに似ているとされる。 そのまま放っておくと干からびるが、水をかけると元通りになるとあります。
今回のアニメに登場したものとは特徴が大分違うので、他の資料を元にしているかもしれません。


今回のエピソードでは、原作にあった行方不明の身内から想いを載せた妖花が届き、身内の死を見届けてなお生きていく女性の姿を描くという骨子を残しつつ、現代の人が見て通じるものにアレンジがされていました。戦没者という要素が無くなった点は残念ですが、今回もなかなか面白い回だったと思います。

今回のゲストヒロインはまゆみちゃんでした。絶対に花子という名前かとばかり思っていましたが、裏切られてしまいました。だって、一期は花田花子さん、三期は増田華子さん、四期は花子さんでしたから、いきなりまゆみになるとは思いません。
花子という名前は、現在の感性に合わせて考えると素敵な名前だとはいい難いものがあるので、変更はやむなしとも思いますが、だからといってまゆみもどうかと思います。あまり垢抜けてはいませんよね。
そして、時代が変わって基本設定も大幅に変わっています。過去の作品ではヒロインは(多分)全員が職業婦人だったのに対して、今回のヒロインまゆみちゃんは学生になっています。
幼い顔立ちをしていたので中学生くらいかと思っていましたが、今年で高校卒業といっていたので十七、八歳なのでしょう。とてもそうは見えませんでした。しかし、幼い顔立ちのわりに、その表情がやたらとエロく見えたのは私だけでしょうか?穢れた心を持っているからそう見えただけかもしれません。


ストーリは乱暴に書いてしまうと、
・妖花が咲いて、不気味だから鬼太郎に相談する。
・妖花の発生源を突き止めるために南方に向かう。
・南の島で、死んだ父親が娘に対して想いを載せた妖花を送っていたことがわかる。
となり、結論に至るまでの過程や背景が異なるものの、過去の作品と同じ構造をしているのがわかります。
特に島へと渡る経路が水路から空路へ変更になったのが大きな違いでしょうか。一、三、四期では蛤、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』で蜃気楼として紹介されている妖怪に乗って南方に向かっていました。このとき、船頭を務めていたのわれらがアイドルはかわうそです。ところが、今回は空路になってしまったのでかわうその出番がまったくなくなってしまいました。
これは重大な問題点ですよ。最近かわうその登場が大分減っている気がします。かわうそ分がもう少しあってもいいでしょうに、妖怪飛行船の建造などと夜行さんもまったく余計なことをしてくれたものです。
しかし、妖怪飛行船のデザイン自体は、とても水木っぽくて好きだったりするのが困りものです。


飛行船での空の旅の途中、三度目の登場となる川男がとても気になりました。今回は台詞すらないのにとても大きな存在感を放っていました。鬼太郎と絡んだことすらないのに。
決して好きなキャラクタだという訳ではないのですが、出てくると気になって仕方がありません。


まゆみちゃんがもしかしたら死んでるかも知れないとに匂わせる展開はとても良かったと思います。
幽霊かと思いきや、実は生霊という落ちだったのですね。多分、鬼太郎と出会う前に花魄に肉体を食われ始めていて、霊魂のみがそれに気づかずに活動していたのでしょう。


全体的に飽きさせない展開で満足です。
ただ、もうちょっとねずみ男は弾けてほしかったかなと思いました。
このところ出番も少なめで、あまり悪事も働いていません。ちょっと自重しすぎではありませんか?