『ゲゲゲの鬼太郎』5−29   

ゲゲゲの鬼太郎』第29話「ネコ娘の妖怪バスツアー」の感想です。


今回登場の妖怪は「狂骨」でした。
この世に未練を残した狂骨が修学旅行に来ていた小学生を次々と襲っていきます。
中盤のホテル内で名前を問い掛けるシーンは、中々雰囲気が出ており、恐怖を誘う良い演出だったと思います。


ただ一寸気になったのは、狂骨の色です。
鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』には、

狂骨は井中の白骨なり。世の諺に甚だしきことをきやうこつともいふも、このうらみのはなはだしきよりいふならん

とあります。
この文面からすると、狂骨は白い妖怪なのでしょう。ですからピンクなのは如何なものかと思います。
ピンクにすると、白骨の妖怪というよりかゾンビの類の様に見えてしまいます。


色意外に関しては、狂骨の扱いは良かったと思います。
「いろは」の順に殺人(?)を行う点は、何故そうなったのかの説明がなされていなかったので消化不良の感もありますが、演出的にはただ子供を襲うよりか、狂骨の狂気を上手く見せることが出来るので、この展開は成功だと思います。
また、狂骨が使った能力も良かったと思います。多田克己の『百鬼解読』によると、

「狂骨」とは、風の動きによって鳴る穴である。髑髏の空虚に風が吹きぬけると、それは笛のように鳴く。

とあります。そこから考えてみると、今回の『鬼太郎』に出てきた狂骨は、一見炎を吐き出して攻撃しているように見えますが、実際は口から吐息を出して攻撃をしているのでしょう。
また、多田は鳥山石燕は「狂骨」を『荘子』の「斉物論」の「天籟を聞く」からの引用だと解説しています。
そこには、

南郭子棊は机に身を寄せかけ、天を仰いで「ふうっ」と息を吐いた。すると魂が抜けたかのように生気を失った。

という一文があります。今回『鬼太郎』に登場した狂骨の子供を死灰に変える吐息と将に同じものでしょう。
今期の『鬼太郎』は結構妖怪を調べて作られてきているように感じますので、スタッフがこの辺りも調べて「狂骨」をこの能力を持った妖怪にしたのかもしれません。


今回は妖怪の扱いも良く、恐怖を喚起する演出もあり、戦闘場面も盛り上がり、ねずみ男もストーリーに貢献していてとても見ていて楽しく、見終わった後にはとても良い気分になりました。




次回予告を見るまでは。

次回予告では、次の登場妖怪は、「片車輪(かたしゃりん)」となっていましたが、



そんな妖怪はいない
次に出てくる妖怪は「片輪車(かたわぐるま)」です。
名前に「かたわ」と付いている為、差別表現を避ける為の措置なのでしょう。
確かに不特定多数の人が見ているテレビという媒体を考えると、可能な限り誰かを不快にさせる・傷つける表現は取り扱わないように気を付けるべきです。
しかし、だからといって安易な言葉狩りの様な事をして良い訳ではありません。
妖怪はマイノリティー(爺婆や障害者、被差別民)が揶揄されている場合がありますので、取り扱いに細心の注意を払うべきです。場合によっては規制されても仕方が無いでしょう。
しかし、この「片輪車」は表層的な部分では規制される要素は無いと思います。
「片輪車」は、深夜に子供を攫う車に乗った女の妖怪ですので、取り立てて障害者に差別的な属性はありません。
ここでポイントになっているのは、名称に「かたわ」と入っている部分のみなのでしょう。


私は、妖怪は名称が一番重要なファクターであると考えています。同じ現象・特性を持った妖怪であっても地方ごとで違う名称を与えられています。
妖怪は元々実体の無い存在ですので、名称が違えば別妖怪となってしまいます。
別の妖怪にしてしまうくらいなら、いっその事出さない方がましです。
次回は予告を見る限りにおいては、ぬらりひょんが出てきて盛り上がりそうな回だけに、「片車輪」なんて事になったのが非常に残念です。