『ゲゲゲの鬼太郎』5−52   

第五期『ゲゲゲの鬼太郎』のオープニングとエンディングのテーマ曲が今週から変わりました。
最初オープニング曲が変わると聞いて、第一期からずっと続いていた「ゲゲゲのうた」でなくなってしまうと心配していたのですが、実際に今日の放送を見たところ、アレンジがされて印象がかなり変わったものの、相変わらずオープニングが「ゲゲゲのうた」であったのでほっとしました。
必ずしもオープニングが「ゲゲゲのうた」である必要は無いとは思いますし、時代に応じた曲を起用したり、作品の内容にあわせて別の曲にするのもいけないことではないと思います。しかし、矢張り五期以前から『鬼太郎』を見てきた者としては、『鬼太郎五期』=「ゲゲゲのうた」のイメージが強いので、あくまで個人的な希望ですが、曲は変えてほしくありません。
来年までシリーズが続けばまた曲の変更があるかもしれませんし、或いは十年後にあるかも知れない六期以降もずっと、オープニングは「ゲゲゲのうた」であって欲しいと思っています。


さて、本編の第五十二話「恐怖!夜道怪」の感想です。
今回登場の妖怪は「夜道怪」。エンディングで目玉親父が言っていたように、埼玉県出身の妖怪で、秩父郡比企郡小川町大塚辺りに伝承があるそうです。別称に「宿かい」「ヤドウケ」などもあるとか。
柳田国男によると、高野聖が妖怪化されたものと説明されています。「高野聖に宿貸すな、娘取られて恥じかくな」という諺があり、高野聖の中には破戒僧のような振る舞いをするものがおり、その行状が次第に「娘を寝取る」から「子供を攫う」に変遷して行き、「夜道怪」という妖怪が出来たようです。
また、十辺舎一九の『列国怪談聞書帖』には民戸に立って宿を借りたり米銭を乞うことを俗に「宿借」と呼ぶ。或いは「道可」という僧がこうした修行をはじめたので、全ての高野聖を「野道可」と呼んだという説もあるそうで、此方が「夜道怪」の名称の語源なのかもしれません。
デザインに関しては、水木先生の『妖鬼化』にあるものを若干アレンジされているものが採用されています。
妖怪の性質は、アニメ本編がほぼ完璧に説明していました。伝承にある「夜道怪」は、辻で「ヤドウカ」と大声で叫んで宿を求めて、誰も貸してくれないと次の村へといって同じことをするそうです。

アニメにおいては、この他に影を自在に操るという特殊能力が加えられていました。
夜道で子供を攫うところから連想して付与されたのでしょうが、非常に上手い設定付けだと思います。
格闘もこれまで出てきた妖怪に比べて格段に上だったように感じました。僧形から一見白兵戦向きではないキャラクタかと思っていましたが、白兵戦に不向きどころか一流の武芸者でした。
考えてみれば、中国の少林寺拳法を代表として、本邦における延暦寺の僧兵や、宝蔵院流槍術なんてものありますし、僧侶と武装・格闘技の組み合わせは結構歴史が古く数が多いものです。意外と僧侶って武闘派ですね。

そう考えると、「夜道怪」が一流の武芸者よろしく非常に切れのある立ち回りをしたのも納得が行きます。
戦闘場面においては、決着の付け方以外は凄く緊迫し、迫力があるものになっていたので、とても見ごたえがあるものでした。
決着の付け方もねずみ男のおならと、脱力するものでしたが、屁糞尿は妖怪と並んで水木先生が好んで描かれるテーマですから、ある意味とても水木作品らしい展開といえなくもないでしょう。


そして、妖怪考証が微に細を穿つような所や、戦闘の出来が良かったところだけでなく、話の本筋も良かったと思います。
人間のエゴと醜さと弱さが良く出ていたと思います。ゲストとして登場した天才学習塾(これまた非常に水木作品らしいネーミングセンスです)に通う少年が、「夜道怪」に一晩軒を貸して、その見返りに望みを叶えて貰うという所謂悪魔との取引を行います。
今頃の小学生らしく、成績が伸び悩んでいるのを苦にした少年は、己の成績を上げて欲しいと妖怪に頼んでしまいます。成績向上をするのに、己の努力以外でどうにか出来るものでは有りませんし、万が一そんな手段があったとしてもそれを選んではいけません。しかし、作中の少年はその事が分かっていながら、心の弱さから妖怪の手を借りて生成を上げる道を選んでしまいます。非難されるべき行いですが、人間なんて誰しもがそんなに心が強いものでは有りません。私だって少年の立場に立っていたら、間違っていると知っていても同じ行動を取ったでしょう。
理屈では分かっていても、つい水が低い方に流れるように、良くない事だと分かっていても、楽な方へと流れされしまうのは人間という弱い存在のサガなのでしょう。この辺りの「夜道怪」と少年の掛け合いが、人間の暗部の一片を上手く魅せていたように思います。


その後、「夜道怪」は天才学習塾に通う全ての子供を攫ってしまいます。少年よりか成績の悪いものを攫う必要は無いと思うのですが、何故か見境無しに根こそぎの誘拐劇です。確かに、一人になれば成績順位一番ですが、それと同時に最下位です。他人と比べて上に立つからこそ嬉しいのであって、一人きりで順位を比べても意味ありませんよね。
典型的な契約を結ぶとその後不幸な結末になるパターンのストーリですが、演出が良かったためか、何処かで見たことあるストーリ展開にも関わらず非常に臨場感のあるものに仕上がっていました。


今回はマイナー妖怪の登場、ホラーテイストなストーリ、迫力のある戦闘と、全編を通じて楽しめました。ネット上で言う所の所謂「神回」だったと思います。
五期が始まった頃は、正直今ひとつだと感じた事が多々あったのですが、ここ暫くは非常にクオリティの高い話ばかりでとても満足しています。
少なくても今年度一杯はシリーズが続く模様ですので、この調子で面白い作品を排出してもらえることを期待します。