『ゲゲゲの鬼太郎』5−75   

ゲゲゲの鬼太郎』第七十五話「見上げ入道の妖怪学校」の感想です。
今回登場の妖怪は「見上げ入道」です。特徴は、作中の描写のように、最初は小さい姿で人の前に姿を現しますが、次第に大きくなり、これを見た人は後ろに倒れてしまうといいます。倒れた人は、時にはそのまま死に至る事もあるとか。これを回避するには、「見上げ入道見越した」と呪文を唱えなくてはならないとされています。
以前に「パパになったねずみ男」の時に登場した「見越し入道」と同じ特徴を持った妖怪です。
この手の次第に大きくなる妖怪は日本全国に分布しており、地方によって次第高、高入道、高坊主、伸上り、乗越入道、見上入道、御輿入道など様々な名で呼ばれています。
水木作品に登場する以前から、非常に有名な妖怪で、河童や天狗に次ぐ知名度を誇っているのではないでしょうか?
この見上げ入道は非常に格の高い妖怪のようで、江戸時代においては妖怪の総大将だと謂われている場合もあります。黄表紙本や双六や歌留多などの玩具にも良く登場しているので、人気の高い妖怪だったのでしょう。

ゲゲゲの鬼太郎』に登場する見上げ入道は、特徴は伝承にあるものに準拠していますが、容姿の方は大分違います。一般的な見上げ入道の外見は、人間より一回り大きな僧形で、轆轤首のように首を長くしています。
この首を長くするといった特徴は、江戸時代の見世物小屋における演出から来ているらしいです。江戸時代の見世物小屋は、今で謂う所のワイドショー的な要素もありました。地方において起こった事件などを面白おかしく尾ひれや背びれを付けて紹介していたそうです。
その中に、怪事件や妖怪現象を取り上げた見世物もありました。地方であった見上げ入道を小屋で表現する必要があったのですが、人間が徐々に大きくなる姿を再現するといったものは、現在のVFXによる技術が無い当時は中々難しいものがあったようです。そこで登場したアイデアが、入道の体そのものを大きくするのではなく、首が徐々に長くなることによって、体が大きくなるように見せるという演出でした。轆轤首の見世物と同じからくりだったようです。
この興行の発想が好評を博して首の長い見上げ入道が有名になったためか、黄表紙本などに登場する見上げ入道、見越し入道は、大抵が首を長くした入道が人を見下ろすような構図で描かれています。
一方、『鬼太郎』における見上げ入道は袈裟を着た一つ目の坊主になっています。これは、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』にある「青坊主」の外見そのままです。
鳥山石燕の青坊主は何も説明がありませんので、どういった妖怪なのかはよく分かりません。その為、何故水木先生が見上げ入道に青坊主の絵を持ってきたのかは不明です。


ストーリの方は、多少のアレンジがあるものの基本的には原作のままです。人間の子供を攫った見上げ入道が、妖怪学校で人間を妖怪へとするべく授業を行うものとなっています。
ゲスト出演をした小林君が水木作品に登場しそうなデザインだったり、蛙の目玉や金魚の煮物といったゲテモノ料理が給食に出てくるのが良かったですね。こういった水木色が強いネタが出てくると、思わずニヤリとしてしまいます。
悪さをするとそのしっぺ返しがあるといった教訓を織り込んでいるあたり、子供向けのアニメらしいなと感じました。
原作や過去のアニメと最も違う点は、見上げ入道が悪い妖怪ではない点でしょう。確かに人間を攫って迷惑をかけていますが、見上げ入道は悪意を持ってやっているのではありませんでしたからね。しかも、攫われる子供にも問題があるので、見ていて憎めない妖怪に感じました。寧ろ、授業妨害や捻くれた言動を繰り返す小林君を見ていると、見上げ入道に攫われていい気味だとも思えてしまいます。
また、子供を攫うといった動機が、少子化対策のアイデアのひとつという点が現代の世相を反映していているのが笑えます。このあたりも水木作品らしさが出ていますね。
今期の見上げ入道は、とても紳士的で品の良い妖怪になっています。過去の見上げ入道は、一度鬼太郎に倒されたことを根に持って、とても性悪な妖怪として描かれています。妖怪大裁判においては、鬼太郎に復讐することを楽しみにしているなんて言っていたりしますからね。
過去作品と比べて、今期の見上げ入道は落ち着いた物腰で、話し方もとても丁寧な感じがします。小林少年の才能にほれ込んでしきりに持ち上げるのも優しい良い先生といったふうに見えて素敵です。
生徒に体罰を与えたり、突拍子も無い授業を行うのは、妖怪と人間の価値観の違いということで勘弁してください。とても素敵な先生でしたから、この見上げ入道は再登場をして欲しいですね。


起承転結がきっちりと書かれていて、突き抜けた面白さはありませんでしたが、原作を上手く捌いた良作だと感じました。
ところで、小林君の前に攫われた三人はどうなったのでしょうか?地獄から生還しているんですよね?